公益財団法人 白山麓僻村塾

活動の記録

2002年度[第11期]
2002年7月6日/白峰 望岳苑

日本漁師−日本人の顔

塩野米松
塩野米松/作家。昭和22年、秋田県角館生まれ。作家として活躍する一方、失われゆく伝統文化・技術についての聞き書きを精力的に行う。西岡常一棟梁の聞き書き『木のいのち木のこころ』は大きな反響を呼んだ。主な著書に『父さんの小さかったとき』『手業に学べ』他多数。
 古来、日本の漁師は積み重ねた経験と勘で魚獲を得ていた。そこには様々な工夫と技があった。だが今は、経験よりも「装備」が漁獲を決める時代になった。一方、国内の漁獲量は下がり続けている。「水産国」と呼ばれた状況は既にない。国内消費の半分が輸入になった。「工業先進国」をめざし、魚たちが産卵する浅瀬を埋め立てたことも一因だろう。だから近くで魚が獲れない。獲れないから遠くまで行かなくてはならない。それには高価な船と多額の経費がいる。その結果、借入金が増える。そんなスパイラルに漁師は入り込んでいる。それでも漁師たちが人生かけて築き上げてきた表情は力強い。日本人が元来持っていた「生きるために作り上げた顔」だ。「目的性を持てない」若い人が、このような表情を取り戻せるかどうか。日本再生への鍵はそこにある。