公益財団法人 白山麓僻村塾

活動の記録

2003年度[第12期]
2003年8月24日/白峰 望岳苑

日本語の豊かさ

高田宏
高田 宏/1932年、京都府に生まれる。石川県で育ち、京都大学文学部卒業後、光文社、アジア研究所、エッソ石油広報誌の発行編集を経て作家となる。78年『言葉の海へ』で大佛次郎賞および亀井勝一郎を受賞。90年『木に会う』で読売文学賞。主著書に『われ山に帰る』『雪古九谷』など。日本海文学大賞選考委員。
 敗戦後まもなく志賀直哉は「日本語を廃止しフランス語を国語にせよ」と言った。日本が負けた大きな責任は日本語にある。論理性に欠け、あいまいだから科学や技術の発展が遅れた、というのが論の中心だった。確かにフランス語は優れた論理の明晰さを備えている。絶対王政以来、国が言葉を管理し、あいまいな言葉や方言を排してきたからだ。それは近代国家成立のために必要な作業だった。だが言葉が痩せ、長い時間をかけてフランス文化の基礎体力が失われることになったのは否めない。日本語は国が言葉の「整理整頓」を極端にしなかった。だから方言が非常に豊かだ。それが日本文化の重層性を作っている。言葉は生きて、たえまなく成長するものだ。それをとどめることは、言葉の持つ力を失わせ、ひいては社会全体の力を失わせることになるだろう。