公益財団法人 白山麓僻村塾

活動の記録

2006年度[第15期]
2006年7月29日/白峰 望岳苑

若い日本と
老いたヨーロッパ?

池澤夏樹
池澤 夏樹/(財)白山麓僻村塾理事長。小説家、詩人。『スティル・ライフ』芥川賞、『母なる自然のおっぱい』読売文学賞、『マシアス・ギリの失脚』谷崎潤一郎賞、『すばらしい新世界』芸術選奨。芥川賞選考委員。
 フランスの港町サン・マロへ行った。城壁に囲まれた旧市街は、戦争で破壊されたものを復元したものだ。復元は昔のやり方で行われたからコピーという印象は全くない。「形を変えない」という強い意志には驚かされる。 一方、日本はどうだろう。建物の想定寿命が約三十年。改修より建て直しを優先する。壊すときには新しい様式が出ているから、それに合わせる。だから、次第に周囲との調和がとれなくなる。その繰り返しが今の日本の街並みを作ったのではないか。
  戦前まではそうでもなかった。だが高度経済成長の頃から変化のピッチがとても早くなった。それはアメリカの影響が徹底してある。「アメリカ=若くて、豊かで、元気な社会」という戦後のイメージが、古いものを遠ざけ、若さが最も価値ある資質という社会を作ったのだ。 日本は若い人を中心にした高密度で便利な社会を作り上げた。だが、そこで人は本当に幸せになったのだろうか。そう考えさせてくれるのがフランスの暮らしだ。
  ヨーロッパは社会運営の主役を担う年齢層が日本より高い。だから、社会を変えていこうとする速度はスローだ。日本とヨーロッパ、どちらがいいとは言えない。一長一短だ。ただ、今の日本のあまりに急速な変化を見ていると、この国はどこに行ってしまうのだろうと不安になることも事実なのだ。