公益財団法人 白山麓僻村塾

活動の記録

2008年度[第17期]
2008年5月31日/白峰 望岳苑
アートの旅10

エミリー・ウングワレー

真野響子
真野響子/女優。1952年生まれ。ドラマ、映画、雑誌等様々な分野で活躍中。2002ワールドカップ日本組織委員会理事。金沢大学非常勤講師。
 オーストラリアを初めて旅したとき、先住民のアボリジニに惹かれた。壁画を見たり、演奏を聞いたり、博物館へ行ったりして彼らの足跡を追った。今年(2008)ようやく、オーストリア政府がアボリジニに対し、公式に謝罪した。謝罪までにかかった歳月が、西洋文明が行った政策がいかにアボリジニにとって過酷だったか、深い溝を作ったかを物語っている。そんな異文化間に横たわる障害を軽々と飛び越えたのが、今日紹介するエミリー・ウングワレーだ。彼女はアボリジニを代表する画家であると同時に、20世紀が生んだ最も重要な抽象画家の一人だ。エミリーはアボリジニの伝統的な生活を送りながら、儀式のためのボディペインティング、ろうけつ染めなどを経て、カンヴァス画を描いた。 86才で他界するまで、晩年の8年間には3000点を超える作品を描き、最後はモダンアートとしての高みに達した。 アボリジニの世界観を表す言葉に「ドリーミング」がある。自分たちの祖先の伝説、彼らの生活を支える霊的な力を指すものだ。エミリーにとって重要なことの一つに、このドリーミングを表現することがあった。それを描くことで、自分が生まれた聖なる土地とつながり、先祖とつながることを望んだ。亡くなる直前まで彼女は描き続けた。そんな人生に私はいま大いに勇気づけられている。