■2001年度[第10期]
2001年9月18日/白峰 望岳苑
失われた手仕事の思想
塩野米松
塩野米松/作家。昭和22年、秋田県角館生まれ。作家として活躍する一方、失われゆく伝統文化・技術についての聞き書きを精力的に行う。西岡常一棟梁の聞き書き『木のいのち木のこころ』は大きな反響を呼んだ。主な著書に『父さんの小さかったとき』『手業に学べ』他多数。
日本の手仕事は、身近な自然と密接に結びついていた。素材を自然から受け、それを上手に利用する職業がたくさんあった。手仕事の時代は「小さな社会」であり、「作り手」と「使い手」が互いに見えた。それゆえ作り手は「最善のものをつくる」努力を積み重ね、同時に職業意識や倫理観を育んできた。しかし大量生産、大量消費の時代はそれを一変させた。安い工業製品は「使い捨て」を常識にし、その結果、職人が消え、多くの仕事が消えた。そして手仕事の時代の思想も消えたのである。私たちはまだ現代の「大きな社会」に合う思想を手に入れていない。現在の不況は、見方を変えれば、手仕事の時代の思想を振り返るいい機会だ。そこから模索する次の世代、未来のあり方には「希望」があるのではないだろうか。