■2003年度[第12期]
2003年5月2日/白峰 望岳苑
映画と人生
『家路』
高橋治・真野響子
高橋 治/(財)白山麓僻村塾理事長。小説家。1929年生まれ。84年『秘伝』で直木賞を受賞。96年『星の衣』で吉川英治文学賞。ほか作品多数。
真野響子/女優。1952年生まれ。ドラマ、映画、雑誌等様々な分野で活躍中。2002ワールドカップ日本組織委員会理事。金沢大学非常勤講師。
こんな人が世の中にいるのなら、年をとるのも素晴らしい。そう思わせてくれたのがポルトガルの映画監督、95才のオリヴェイラだ。数年前『クレーヴの奥方』を観て衝撃を受けた。だがこの『家路』にはそれ以上のものを感じる。彼の作品には「説明を拒否する」ところがあるが、本編はそれが徹底しており、また何重にも巧妙な伏線が仕掛けられいる。一見、物語に関係ない場面をフィルムに展開させながら、その裏側に、主人公の人生にとって深い意味があることを進展させていく。その手法には驚かされる。人生に起こる出来事は、前触れなしに人生の中に入り込む。「異常」は常に「日常」の隣に存在し、それらを明確に区別することはできない。そして、そこから人間は自分の生き方のテーマを見つけねばならない。彼はそう伝えているのではないだろうか。