公益財団法人 白山麓僻村塾

活動の記録

2009年度[第18期]
2010年3月20日/白峰 望岳苑

須賀敦子を読む2

湯川豊
湯川豊/1938年、新潟県に生まれる。(財)白山麓僻村塾副理事長。京都造形芸術教授大学。1938年生まれ。元文藝春秋常務取締役。著書に『イワナの夏』『夜明けの森、夕暮の谷』『須賀敦子を読む』読売文学賞。
須賀敦子論を書いた。そのために、須賀が残した主要五冊のエッセイ集を徹底的に読み直した。書いた理由は二つある。一つは、死後発表された数々の須賀敦子論が、須賀の文章は名文だ、としながら、どこが名文なのか説明がなかったこと。もう一つは、須賀の文章の意味を論ぜずに、その人間的魅力に触れるものばかりだったからだ。「文は人なり」というが、文学者にとって「文は人以上」だ。須賀の文章がなぜ私たちに迫ってくるか、どういうものであるのか、それを書かなければ本当の意味での追悼にはならない、そう思ったのだ。須賀のエッセイの特徴は、記憶をなぞって書くのではなく、「記憶をきっかけ」にして、ある場面を「小説家が小説を書くように」再現するものだ。そのように描写することで、結果として、人間をくっきりと立ち上がらせる。それが須賀の独創性であり、須賀が切り開いたエッセイの新しい魅力だ。では、なぜこういう書き方をしたのか。それは、須賀が過去を再現することによって、その日々をもう一度「生き直そう」としたからではないか。つまり、付き合ってきた人の人間的な意味、自分に対する意味というのを問い直したかったのだ。須賀の文章からは人間の物語がつぎつぎに現れてくる。ぜひ、楽しんでほしい。